佐左木 俊郎
栗の花の咲くころ
一
暗欝な空が低く垂れていて家の中はどことなく薄暗かった。父親の嘉三郎は鏡と剃刀とをもって縁側へ出て行った。併し、縁側にも、暗い空の影が動いていて、植え込みの緑が板敷の上一面に溶けているのであった。
「それでも幾らか縁側の方がよさそうだで。」
嘉三郎はそう呟くように言いながら、板敷へ直かに尻を据えて、すぐ頬の無精髭を剃りにかかった。
佐左木 俊郎
一
暗欝な空が低く垂れていて家の中はどことなく薄暗かった。父親の嘉三郎は鏡と剃刀とをもって縁側へ出て行った。併し、縁側にも、暗い空の影が動いていて、植え込みの緑が板敷の上一面に溶けているのであった。
「それでも幾らか縁側の方がよさそうだで。」
嘉三郎はそう呟くように言いながら、板敷へ直かに尻を据えて、すぐ頬の無精髭を剃りにかかった。