南部 修太郎

S中尉の話

「まあ皆、聞いて呉れ給へ。この僕にもこんな話があるから面白いぢやあないか……」

と、B歩兵聯隊附のS中尉が話し始めたのです。かう云ふと、定めて戰爭の手柄話でも聞かされるのかと、お思ひになるでせう。處が大違ひなんです。この間Mの家で、一昔前のA中學校の卒業生だつた我我五人が、久し振りに落ち合つた時の話です。五人と云つても、Mはもう法科大學の四囘生ですし、Yはある商店の番頭でお召ずくめかなんかでをさまつてゐますし、Hは高工を出て或る造船所の技手、それにS中尉と、私だつたのです。勿論五人の間には昔ながらの親しみと、寛ぎとがありました。然し、姿形から云ふともう見違へる程大人びて、腕白な中學時代の面影は殆ど何處にもありませんでした。

寒さの隨分嚴しい晩でしたが、しつきりなしに喫かす煙草の烟や、Mのお母さんの心添への伊太利亞ベルモットの醉ひに、皆の顏は赤く染まり、何となく座が浮き立つてゐました。それに何と云つても血氣盛りな、若若しい人達の集りです。自分の生活や爲事の話、行先の希望、人生觀などと話題に興が乘つて、やがて結婚や女性問題が話の中心に進んで來た時です。

「どうだい。久し振りの罪滅しに戀愛に關する告白をし合はうぢやないか……」

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