黒島 伝治

豚群

一

牝豚は、紅く爛れた腹を汚れた床板の上に引きずりながら息苦しそうにのろのろ歩いていた。暫く歩き、餌を食うとさも疲れたように、麦藁を短く切った敷藁の上に行って横たわった。腹はぶってりふくれている。時々、その中で仔が動いているのが外から分る。だいぶ沢山仔を持っていそうだ。健二はじっと柵にもたれてそれを見ながら、こういうやつを野に追い放っても大丈夫かな、とそんなことを考えていた。溝にでも落ると石崖の角で腹が破れるだろう。そういうことになると、家の方で困るんだが……。

問題が解決するまで、これからなお一年かゝるか二年かゝるか分らないが、それまでともかく豚で生計を立てねばならなかった。豚と云っても馬鹿にはならない。三十貫の豚が一匹あればツブシに売って、一家が一カ月食って行く糧が出るのだ。

こゝ半年ばかり、健二は、親爺と二人で豚飼いばかりに専心していた。荷車で餌を買いに行ったり、小屋の掃除をしたり、交尾期が来ると、掛け合わして仔豚を作ることを考えたり、毎日、そんなことで日を暮した。おかげで彼の身体にまで豚の臭いがしみこんだ。風呂でいくら洗っても、その変な臭気は皮膚から抜けきらなかった。

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