海野 十三

ある宇宙塵の秘密

その夜、テレビジョン研究室の鍵をかけて外に出たのが、もう十二時近かった。裏門にいたる砂利道の上を、ザクザクと寒そうな音をたてて歩きながら、私はおもわず胴震いをした。

(今夜は一つ早く帰って、祝い酒でもやりたまえ。なにしろ教授になったんじゃないか。これで亡くなられた渋谷先生の霊も、もって瞑すべしだ。……)

と、昼間同僚たちがそういってくれた言葉が思い出された。祝い酒はともかくも、早く帰ったほうがよかったようなきがする。どうもさっきから、背中がゾクゾク寒いうえに、なんだか知らぬが、心が重い。暗闇のなかから、恐ろしい魔物がイキナリ飛びだしてきそうな気がして妙に不安でならない。運動不足から起きる狭心症の前徴ではないだろうか。いや、これはやっぱり、今日の教授昇格が自分の心を苦しめるのだ。渋谷先生が三年前に亡くなられて、テレビジョン講座に空席が出来たればこそ、自分のような若い者が教授になれたのである。それが変に心苦しいのであろう。

それというのも、恩師渋谷博士が当り前の亡くなりかたをされたのであったら、そうも思わないのだけれど、博士の最後ほど奇々怪々なるものはなかったのである。じつに博士は、一塊の宇宙塵として天空にその姿を消されたのであった。地球が生れて八十億年、その間にどのくらいおびただしい人間が生れたか数えられないほど多いが、宇宙塵に化した人間はただひとり、渋谷博士が数えられるだけである。

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