夢野 久作
人の顔
一
チエ子は奇妙な児であった。
孤児院に居るうちは、ただむやみと可愛いらしい、あどけない一方の児であったが、五ツの年の春に、麹町の番町に住んでいる、或る船の機関長の家庭に貰われて来てから一年ばかり経つと、何となく、あたりまえの児と違って来た。
背丈けがあまり伸びない上に、子供のもちまえの頬の赤味が、いつからともなく消えうせて、透きとおるほど色が白くなるにつれて、フタカイ瞼の眼ばかりが大きく大きくなって行った。それと一緒に口数が少くなって、ちょっと見ると唖児ではないかと思われるほど、静かな児になった。そうして時たま口を利く時には、その大きな眼を一パイに見開いて、マジマジと相手の顔を見る。それから、その小さな下唇を、いく度もいく度も吸い込んだり出したりしているうちに、不意に、ハッキリした言葉つきで、飛んでもないマセた事を云い出したりするのであったが、それが又チエ子を、たまらない程イジラシイ悧溌な児に見せたので、両親は大自慢で可愛がるのであった。チエ子が一番わるい癖の朝寝坊でも、叱るどころでなく、かえって手数のかからない児だと云って、自慢の一ツにする位であった。