岡本 綺堂

半七捕物帳

一

安政と年号のあらたまった年の三月十八日であった。半七はこれから午飯を食って、浅草の三社祭りを見物に出かけようかと思っているところへ、三十五六の男がたずねて来た。かれは神田の明神下の山城屋という質屋の番頭で、利兵衛という白鼠であることを半七はかねて知っていた。

「なんだかお天気がはっきりしないので困ります。折角の三社様もきのうの宵宮はとうとう降られてしまいました。きょうもどうでございましょうか」と、利兵衛は云った。

「全くいけませんでしたね。降っても構わずにやるというから、わたしもこれからちょいと行って見ようかと思っているんですがね。少し雲切れがしているから、午過ぎからは明るくなるかと思いますが、なにしろ花時ですから不安心ですよ」

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